ブロメライン軟膏(一般名:ブロメライン)は1974年から発売されている外用剤(塗り薬)になります。
ブロメラインは皮膚に塗るお薬になりますが、タンパク質を分解するという面白い作用を持っています。この作用から、主に皮膚の壊死組織を化学的に除去するために用いられています。
塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのか一般の方にとっては分かりにくいと思います。
ブロメラインはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのでしょうか。ブロメラインの効能や特徴・副作用についてみてみましょう。
1.ブロメラインの特徴
まずはブロメラインの特徴を紹介します。
ブロメラインはタンパク質を分解する作用を持ちます。ここから褥瘡や熱傷などで皮膚細胞が壊死してしまった際に、その除去に用いられます。
私達の身体を作っている細胞は長時間圧迫されていたり、高温に晒されたりすると死んでしまう事があります。このような現象を「壊死」と呼びます。
皮膚細胞に壊死が生じた場合、皮膚は黒くなり二度と再生する事はありません。壊死細胞はばい菌の巣窟になりやすく、また正常な皮膚細胞の増殖を妨げるため、出来るだけ早期に取り除いてあげる必要があります。
壊死組織を取り除く事を「デブリドマン(debridement)」と言いますが、これにはいくつかの方法があります。
最も分かりやすいのは「外科的デブリドマン」で、これはメスなどを用いて壊死組織を「切り取る」方法です。確実に壊死組織を除去できますが、一方で専門家でないと行えず、また正常皮膚を傷つけてしまうリスクもあります。
一方で「化学的デブリドマン」という方法もあります。これは壊死組織を溶かすお薬を塗る事で化学的に壊死組織を除去する方法です。化学的デブリドマンは塗れば誰でも行えますが、必要な部位にのみ塗らないと効果を得られず、むしろ正常な皮膚を傷つけてしまう事もあります。
ブロメラインはこのような「化学的デブリドマン」に用いられるお薬です。
ブロメラインはタンパク質を分解するというはたらきを持つ物質であり、ここから医療分野では壊死組織の除去に用いられています。
「皮膚を溶かす」と聞くと怖いお薬のように感じるかもしれませんが、そこまで危険なお薬ではありません。ブロメラインはパイナップルに含まれている植物由来の成分になりますが、皮膚にパイナップルをくっつけたからといって皮膚が溶ける事はありませんよね。
正常な皮膚細胞にはバリア機能があるため、ブロメラインを正常な皮膚に塗ったからといって溶かしてしまうという事はありません。
このように正常の皮膚には強くは作用しませんが、バリア機能が消失した壊死細胞にはタンパク質を溶かす作用を発揮します。
ブロメラインを使用する際の注意点としては、タンパク質を溶かすという作用である以上、
- なるべく正常な皮膚には塗らない
- 壊死組織が除去されたら異なるお薬に切り替える
必要があるという点が挙げられます。
ブロメラインの主な作用は傷を治す事ではなく、壊死組織を除去する事です。そのため壊死組織が除去されたらブロメラインの目的は達成されているため速やかにお薬を切り替える必要があります(このような場合、肉芽の形成を促進するお薬が次の候補になります)。
壊死組織もないのにブロメラインを続けてしまうと、ブロメラインは新しく作られた皮膚細胞をも溶かしてしまう可能性があります。作られたばかりの皮膚細胞はバリア機能が未熟なため、ブロメラインによって溶けてしまいやすいのです。
またブロメラインは壊死組織にのみ塗るもので、壊死組織のない傷や正常な皮膚に塗ってはいけません。これも皮膚細胞を傷つける可能性があるためです。
以上からブロメライン軟膏の特徴として次のような事が挙げられます。
【ブロメライン軟膏の特徴】
・タンパク質を溶かす作用があり、主に壊死組織の除去に用いられる
・壊死組織のない傷に塗るべきではない
・正常な皮膚に塗るべきではない
・壊死組織が除去されたら速やかに別のお薬に切り替える必要がある
2.ブロメラインはどんな疾患に用いるのか
ブロメラインはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。
【効能又は効果】
熱傷・褥瘡・表在性各種潰瘍・挫傷・切開傷・切断傷・化膿創などの創傷面の壊死組織の分解、除去、清浄化およびそれに伴う治癒促進
難しい病名が並んでいますが簡単に言ってしまえば、皮膚に壊死が生じた際に、その壊死組織を除去するために用いるという事です。
ブロメライン軟膏の有効率は、
- 熱傷に対する有効率は77.7%
- 褥瘡に対する有効率は88.9%
- 表在性各種潰瘍に対する有効率は75.0%
- 挫滅創・切開創に対する有効率は90.0%
- 化膿創に対する有効率は73.3%
- その他の壊死部に対する有効率は84.6%
と報告されています。
3.ブロメラインにはどのような作用があるのか
ブロメラインにはどのような作用があるのでしょうか。
ブロメラインの作用について詳しく紹介します。
Ⅰ.タンパク質の分解
ブロメライン軟膏の主な作用は、タンパク質の分解です。
タンパク質は多数のアミノ酸が結合して構成されていますが、ブロメラインはこのアミノ酸とアミノ酸の結合を切ることでタンパク質を分解します。
具体的には、アルギニンとアラニン、アラニンとグルタミンのアミノ酸結合を切る作用を持っている事が確認されています。
「細胞を溶かす」と聞くと怖いお薬に感じられるかもしれませんが、ブロメラインは自然にも存在する物質であり取り立てて危険なものではありません。
ブロメラインはパイナップルに含まれている成分になりますが、料理の際にお肉を柔らかくするためにパイナップルにつけるという方法があるそうです。これもブロメラインのタンパク質分解作用を利用したものです。
これを医療分野に使用し、壊死組織を分解・除去するために用いているというわけです。
ブロメラインを壊死組織の除去に用いると、患者さんは「正常な皮膚も溶かしてしまうのではないですか?」と心配される事があります。
もちろん正常な皮膚にもダメージを与えてしまう可能性はあるため、出来るだけ壊死組織にのみ塗る必要がありますが、では正常な皮膚に塗ったら皮膚は溶けてしまうのかというとそんな事はありません。
正常な皮膚はただのタンパク質ではなく生きている細胞ですので、異物が侵入しにくいようなバリア機能を持っています。ブロメラインを塗っても軽度の痛みや出血が出現する事はありますが、溶けてしまうことはまずありません。
対して壊死組織というのは死んだ細胞であり、バリア機能は消失しています。そのためブロメラインを塗るとそのままタンパク質分解の作用が発揮されるのです。
とはいっても正常な皮膚にも多少作用する可能性はありますので、できるだけ壊死組織にのみ塗り、それ以外の部位には塗らない事が大切です。
Ⅱ.抗血栓作用
ブロメラインはプラスミンという物質を増やす作用があります。
プラスミンはフィブリノーゲンという血栓を作る元となる物質のはたらきをジャマするため、プラスミンが増えると血栓ができにくくなります。
血栓ができにくくなるという事は血液が流れやすくなるという事になります。
ブロメラインを皮膚に塗ると、このような抗血栓作用により塗った部位の血流量が増えやすくなり、これにより傷の治りを早める効果も期待できます。
しかし一方で傷口の出血を助長してしまうリスクもあります。
4.ブロメラインの副作用
ブロメラインの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
ブロメラインの副作用発生率は35.47%と報告されています。ブロメラインはタンパク質を「溶かす」はたらきがあるため、どうしてもある程度副作用が生じやすいお薬になります。
そのため独断で使用せず、専門家にしっかりと指示を受けながら使用していく必要があります。
生じる副作用としては
- 出血
- 疼痛
- 創縁のエロジオン(潰瘍)
などがあります。
ブロメラインはタンパク質を溶かすため、壊死組織を除去するだけでなく正常な皮膚も刺激してしまう事があります。これにより時に出血や疼痛が生じてしまうのです・
ブロメラインの持つ抗血栓作用も出血を生じやすくさせます。また傷口に新しく作られている正常な皮膚細胞も溶かしてしまう事があります。
そのためブロメラインは壊死組織のみに塗り、壊死組織が除去されたら速やかに使用を中止し、他の塗り薬に切り替える必要があります。
実際ブロメラインの添付文書には次のように記載されています。
有効成分ブロメラインは蛋白分解酵素である。蛋白分解という主作用に基づいて、局所の疼痛、出血をみることがあるから、壊死組織が除去された後は使用を中止して、他の処置にかえること。
また重大な副作用としては
- アナフィラキシーショック(不快感、血圧低下、呼吸困難、全身紅潮等)
が報告されています。このような副作用の可能性を認めた場合はすぐに投与を中止し、病院を受診する必要があります。
5.ブロメラインの用法・用量と剤形
ブロメラインには、
ブロメライン軟膏 5万単位/g 20g
の1剤型のみがあります。
ブロメラインの使い方は、
ガーゼ、リントなどに適量の軟膏をのばし、潰瘍辺縁になるべく触れないようにして塗布。1日1回交換する。創傷面が清浄化し、新生肉芽組織の再生が認められた場合は使用を中止する。
と書かれています。
ブロメラインの塗布で注意することは、
- 出来るだけ壊死組織のみに塗る事
- 壊死組織が除去されたら速やかに中止し、別のお薬に切り替える事
です。
6.ブロメラインの使用期限はどれくらい?
ブロメラインの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。
「家に数年前に処方してもらった塗り薬があるんだけど、これってまだ使えますか?」
このような質問は患者さんから時々頂きます。
これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件(直射日光を避けて室温保存)で保存されていたという前提だと、3年が使用期限となります。
7.ブロメライン軟膏が向いている人は?
以上から考えて、ブロメライン軟膏が向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。
ブロメライン軟膏の特徴をおさらいすると、
・タンパク質を溶かす作用があり、主に壊死組織の除去に用いられる
・壊死組織のない傷に塗るべきではない
・正常な皮膚に塗るべきではない
・壊死組織が除去されたら速やかに別のお薬に切り替える必要がある
というものでした。
ここから、壊死組織を伴う皮膚疾患に向いているお薬になります。具体的には、
- 褥瘡(とこずれ)
- 熱傷(やけど)
などによく用いられます。
ブロメラインは壊死組織を溶かす作用がありますが、壊死組織がなくなった後も塗り続けていると正常な皮膚を傷つけてしまう可能性があります。
そのためブロメラインを塗っている間はしっかりと皮膚状態を観察し、必要な期間のみ使い、必要がなくなったら速やかに中止する事が大切です。