シアノコバラミン点眼液は、1967年から発売されている「サンコバ点眼液」のジェネリック医薬品です。
ジェネリック医薬品とは、先発品(サンコバ点眼液)の特許が切れた後に他社から発売された同じ成分からなるお薬の事です。お薬の開発・研究費がかかっていない分だけ、薬価が安くなっているというメリットがあります。
シアノコバラミン点眼液は目薬の中でも「調節機能改善薬」という種類に属し、目のピント調節に関わる毛様体筋などに作用することで疲れ目や眼精疲労などに効果が期待できます。
安全性が高く大きな副作用もないため、眼精疲労に広く処方されるお薬です。
シアノコバラミン点眼液はどのような特徴のあるお薬で、どのような患者さんに向いているお薬なのでしょうか。
ここではシアノコバラミン点眼液の特徴や効果・副作用を紹介させて頂きます。
1.シアノコバラミン点眼液の特徴
まずはシアノコバラミン点眼液の特徴を紹介します。
シアノコバラミン点眼液はビタミンB12が配合された目薬です。ビタミンB12の作用によって目のピント調節機能を改善させ、眼精疲労や疲れ目に効果が得られます。
シアノコバラミン点眼液はいわゆる「疲れ目」に対して用いられる目薬になります。
その作用は穏やかで「目薬をさせば、すぐに目の疲れが取れる!」というものではありません。「気休め程度」と評価する医師もいるくらいで、その効果は弱く、穏やかに効くお薬というイメージです。
しかしその分、副作用もほとんどありません。
シアノコバラミン点眼液は赤っぽい色をしていますが、これはシアノコバラミンの主成分であるビタミンB12の色になります。
たまに「赤いけど目に入れて大丈夫なのか」と質問されますが、これはビタミンの色で着色料ではありませんので心配はいりません。
シアノコバラミン点眼液はこのビタミンB12が主成分になります。ビタミンB12は組織呼吸を増やす作用があり、細胞が活動するみなもととなるエネルギー(ATP)を増やしやすくします。
これによって眼の疲労を回復させやすくしてくれるのです。
以上からシアノコバラミン点眼液の特徴として次のような点が挙げられます。
【シアノコバラミン点眼液の特徴】
・目のピント調節を改善させる事で眼精疲労や疲れ目に効果がある |
2.シアノコバラミン点眼液はどのような疾患に用いるのか
シアノコバラミン点眼液はどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には次のように記載されています。
【効能又は効果】
調節性眼精疲労における微動調節の改善
難しく書かれていますが、要するに「疲れ目や眼精疲労を改善させる目的で投与する」と考えて問題ありません。
眼精疲労というのは、目が酷使される事によって、目のレンズ(水晶体)の厚さを調節する毛様体筋という筋肉が疲弊し、レンズ調整を上手く行なえなくなる事です。
毛様体筋が疲労してしまうと、筋肉の収縮-弛緩といった微調節が行いにくくなるため、レンズの厚さを適正に調節できなくなります。そうなるとかすみ目や眼痛、頭痛などが生じます。これが眼精疲労です。
眼精疲労は近くのものを見続けると生じやすくなります。近くのものを見るときはレンズである水晶体を厚くしないといけませんが、水晶体を厚くするために毛様体筋は収縮します。近くのものを見続けるという事は毛様体筋を収縮させ続けることになるため、毛様体筋が疲弊しやすくなってしまうのです。
ちなみに老眼になると近くのものが見えにくくなるのも、毛様体筋の筋力が弱って、収縮が十分にできなくなるためです。
最近ではパソコンやスマートフォンなどを長時間見続けることで眼精疲労となってしまう方も多くなっています。
シアノコバラミン点眼液は、このような眼精疲労による症状を改善させるはたらきがあります。
ではシアノコバラミン点眼液は疲れ目・眼精疲労に対してどのくらいの効果があるのでしょうか。
シアノコバラミン点眼液はジェネリック医薬品のため、有効性に関する詳しい調査は行われておりません。しかし先発品の「サンコバ点眼液」では行われており、眼精疲労患者さんにサンコバを点眼してもらったところ、「有効」と判定された率は66.1%と報告されています。
またプラセボ(何の成分も入っていない偽薬)とサンコバを比較すると、眼精疲労に対して明らかな有意差をもって有効性を認めた事も報告されています。
同じ主成分からなるシアノコバラミン点眼液もこれと同程度の有効率があると考えられます。
3.シアノコバラミン点眼液にはどのような作用があるのか
シアノコバラミンは具体的にどのような機序で眼精疲労を改善させているのでしょうか。
シアノコバラミンは「シアノコバラミン」が主成分ですが、これはビタミンB12の一種になります。このシアノコバラミンに眼精疲労を改善させるはたらきがあるのです。
ビタミンB12は組織呼吸を活性化する作用があります。組織呼吸というのは細胞が酸素を原料にATPというエネルギーを作り出す行為です。ATPは内臓や筋肉を動かすために使われますのでATPが豊富に作られた方が身体は疲労しにくくなります。
ビタミンB12は身体の様々な部位の組織呼吸を活性化させますが、特に神経系と親和性が高いと考えられています。そのためビタミンB12の飲み薬(メチコバールなど)は手足のしびれ・痛みなどの神経症状に対しても用いられています。
同様にビタミンB12製剤であるシアノコバラミンを眼に使用すると、毛様体筋を支配している末梢神経の組織呼吸を特に活性化し、毛様体筋および毛様体筋を支配する末梢神経の活動に必要なエネルギー(ATP)を増やします。
これにより眼精疲労が生じにくくなると考えられています。
実際にシアノコバラミンを点眼すると、眼における酸素消費量が増加する事が確認されています。これは眼の組織の「組織呼吸」が活性化されている事を表しています。
組織呼吸は「細胞呼吸」「内呼吸」とも呼ばれます。細胞内に酸素を取り込み、それを二酸化炭素と水に分解することで、酸素からエネルギー(ATP)を取り出す作業の事です。
つまり眼の酸素消費量が増えたということは、その部位のエネルギー源(ATP)が増えたという事です。ATPは筋収縮を行う際のエネルギーにもなりますので、眼のATPが増えれば疲弊した毛様体筋も再び収縮しやすくなります。
4.シアノコバラミン点眼液の副作用
シアノコバラミン点眼液にはどのような副作用があるのでしょうか。また副作用の頻度はどのくらいなのでしょうか。
シアノコバラミン点眼液は、その主成分がビタミンB12というビタミンですので安全性に優れます。
臨床的な印象としては副作用は「ほぼ生じない」と言っても良いでしょう。
時折、体質的に合わない方には、
- 眼のかゆみ
- 眼痛
- 刺激
などが生じることがありますが、いずれも重篤となる事は稀で、使用を中止すれば自然と改善する程度です。
5.シアノコバラミン点眼液の用法・用量と剤形
シアノコバラミン点眼液は次の剤型が発売されています。
シアノコバラミン点眼液0.02% 5ml
シアノコバラミン点眼液の使い方は、
通常、1回1~2滴を1日3~5回点眼する。なお、症状により適宜増減する。
となっています。
お薬は基本的には医師が指示した用法通りに使用していただきたいのですが、シアノコバラミンに関してはそこまで厳密に投与する必要はありません。
一応医薬品ですので、主治医に使用法を確認する必要はありますが、1日数回と幅を持たせた点眼で問題はありません。
6.シアノコバラミン点眼液が向いている人は?
以上から考えて、シアノコバラミン点眼液が向いている人はどのような人なのかを考えてみましょう。
シアノコバラミン点眼液の特徴をおさらいすると、
【シアノコバラミン点眼液の特徴】
・目のピント調節を改善させる事で眼精疲労や疲れ目に効果がある |
などがありました。
シアノコバラミンは穏やかに効き、副作用もほとんどないため、眼精疲労の方のほとんどに向いているお薬です。
しかし、眼精疲労のほとんどは眼を無理して酷使している事が原因であり、シアノコバラミンによって改善させるのはその場しのぎの対症療法にしかすぎません。
眼精疲労の治療はシアノコバラミンだけに頼るのではなく、生活習慣の改善を行うことが一番大切です。
例えば、眼精疲労の原因や過労や睡眠不足であるのであれば、ただシアノコバラミンで眼精疲労を回復させてもこれは不十分で、根本的な治療としては休養や十分な睡眠をとる必要があります。
近年では長時間のパソコン作業やスマートフォン使用などが原因となる事も多く、このような場合でも定期的に休憩を入れたり、作業時間を短くしたりする工夫をまずは取り入れるようにしましょう。
7.先発品と後発品は本当に効果は同じなのか?
シアノコバラミン点眼液は「サンコバ点眼液」というお薬のジェネリック医薬品になります。
ジェネリックは薬価も安く、患者さんにとってメリットが多いように見えます。
しかし「安いという事は品質に問題があるのではないか」「やはり正規品の方が安心なのではないか」とジェネリックへの切り替えを心配される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同じ商品で価格が高いものと安いものがあると、つい私たちは「安い方には何か問題があるのではないか」と考えてしまうものです。
ジェネリックは、先発品と比べて本当に遜色はないのでしょうか。
結論から言ってしまうと、先発品とジェネリックはほぼ同じ効果・効能だと考えて問題ありません。
ジェネリックを発売するに当たっては「これは先発品と同じような効果があるお薬です」という根拠を証明した試験を行わないといけません(生物学的同等性試験)。
発売したいジェネリック医薬品の詳細説明や試験結果を厚生労働省に提出し、許可をもらわないと発売はできないのです、
ここから考えると、先発品とジェネリックはおおよそ同じような作用を持つと考えられます。明らかに効果に差があれば、厚生労働省が許可を出すはずがないからです。
しかし先発品とジェネリックは多少の違いもあります。ジェネリックを販売する製薬会社は、先発品にはないメリットを付加して患者さんに自分の会社の薬を選んでもらえるように工夫をしています。例えば使い心地を工夫して添加物を先発品と変えることもあります。
これによって患者さんによっては多少の効果の違いを感じてしまうことはあります。この多少の違いが人によっては大きく感じられることもあるため、ジェネリックに変えてから調子が悪いという方は先発品に戻すのも1つの方法になります。
では先発品とジェネリックは同じ効果・効能なのに、なぜジェネリックの方が安くなるのでしょうか。これを「先発品より品質が悪いから」と誤解している方がいますが、これは誤りです。
先発品は、そのお薬を始めて発売するわけですから実は発売までに莫大な費用が掛かっています。有効成分を探す開発費用、そしてそこから動物実験やヒトにおける臨床試験などで効果を確認するための研究費用など、お薬を1つ作るのには実は莫大な費用がかかるのです(製薬会社さんに聞いたところ、数百億という規模のお金がかかるそうです)。
しかしジェネリックは、発売に当たって先ほども説明した「生物学的同等性試験」はしますが、有効成分を改めて探す必要もありませんし、先発品がすでにしている研究においては重複して何度も同じ試験をやる必要はありません。
先発品と後発品は研究・開発費に雲泥の差があるのです。そしてそれが薬価の差になっているのです。
つまりジェネリック医薬品の薬価は莫大な研究開発費がかかっていない分が差し引かれており先発品よりも安くなっているということで、決して品質の差が薬価の差になっているわけではありません。
8.シアノコバラミン点眼液と同じような市販薬はないの?
シアノコバラミン点眼液はビタミンB12が含まれている疲れ目・眼精疲労の治療薬です。
疲れ目・眼精疲労の方は多く、仕事でこれらの症状が出ている方は日中忙しい事も多いため、「薬局やドラッグストアで買える市販薬はないのか」という事を聞かれる事があります。
シアノコバラミン点眼液自体は処方薬であるため、医師の診察を受けて処方箋をもらわないといけません。
しかし市販薬の中には、シアノコバラミンと同じようにビタミンB12を含むものがあります。
これらの点眼液はシアノコバラミンと似た作用が期待できるため、どうしても受診の時間が取れない場合はこれらのお薬をドラッグストアで購入しても良いかもしれません。
しかし今の目の症状が本当にこれらの目薬で良いのかは、医師でないと分からないところもあります。そのため時間が取れれば出来る限り病院を受診し、医師の診察を受けた上で処方してもらうようにする事をお勧めします。
Ⅰ.サンテメディカル10
「サンテメディカル10」はシアノコバラミン点眼液と同じくビタミンB12であるシアノコバラミンを0.02%配合しています。更に他のビタミンB群(バンテノール、ビタミンB6など)も配合されているため、より組織呼吸を高める作用が期待できます。
シアノコバラミン点眼液には配合されていない、炎症や充血を抑える成分も配合されているため、目の痛みやかゆみもある場合に適しています。