ゲンタシン軟膏・クリームの効果と副作用【抗生剤軟膏】

抗生剤軟膏

ゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリーム(一般名:ゲンタマイシン硫酸塩)は1970年から発売されている外用抗生剤になります。

外用抗生剤とは皮膚に外用する(塗る)お薬で、抗菌作用(細菌をやっつける作用)を持っているお薬だという事です。ゲンタシンは外用抗生剤の中でも「アミノグリコシド系」というタイプの抗菌薬が含まれています。

外用剤は病変部にのみ作用するため、飲み薬のように全身には作用しにくく、余計な副作用がでにくいというメリットがあります。しかしあくまでも局所に対する効果になるため、皮膚の深い場所の感染や広範囲の感染には向きません。

塗り薬はたくさんの種類があるため、それぞれがどのような特徴を持つのかは分かりにくいものです。

ゲンタシンはどんな特徴のあるお薬で、どんな患者さんに向いているお薬なのか、ここではゲンタシンの効能や特徴・副作用について紹介していきます。

 

1.ゲンタシンの特徴

まずはゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームの特徴をざっくりと紹介します。

ゲンタシンはアミノグリコシド系に属する抗菌薬になります。抗菌薬とは菌(細菌)をやっつけるお薬の事ですので、塗り薬であるゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームは主に皮膚の細菌感染に対して用いられます。

細菌には様々な種類がいますが、大きく分けると

  • グラム陽性球菌(ブドウ球菌、連鎖球菌など)
  • グラム陽性桿菌(リステリア菌、クロストリジウムなど)
  • グラム陰性球菌(淋菌、髄膜炎菌など)
  • グラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラなど)

の4種類があります。このうち、ほとんどの菌はグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌に属し、その他のグラム陽性桿菌やグラム陰性球菌はあまり見かけることはありません。

アミノグリコシド系は主にグラム陰性桿菌に対して強い抗菌力を持ち、またグラム陽性球菌に対しても多少の抗菌力を持っています。主要な菌に幅広く効くため、頼れるお薬になります。

しかし皮膚の感染症の8割ほどはグラム陽性球菌であるため、グラム陽性球菌に対してそこまで強い抗菌力を持たないゲンタシンは、重症の皮膚感染症にはあまり向かないことが多い面もあります。

抗菌薬は種類によって効く菌が異なります。幅広い菌に効果を示すお薬もあれば、特定の菌のみにしか聞かないようなお薬もあります。

一見すると多くの菌に効く抗菌薬の方が良いようにも思われます。確かにどの菌が原因かどうか特定できないような感染症では、多くの菌に効く抗菌薬を使った方が治る確率は高いでしょう。

しかし、だからといって一概に幅広く効く抗菌薬が良いとは言えません。なぜならば、多くの菌に作用してしまう抗菌薬は、様々な菌に中途半端に作用してしまう事で耐性菌を作ってしまいやすいというデメリットがあるからです。

【耐性菌】
特定の抗菌薬に対して耐性を獲得し、その抗菌薬が効かなくなってしまった細菌の事。細菌が様々な抗菌薬に対して耐性を獲得してしまうと「多剤耐性菌」となり、治療をする事が困難になってしまう。

ゲンタシンも抗菌薬である以上、耐性菌のリスクもあるお薬です。実際、ゲンタシンは1970年から長く使われているため、現在はゲンタシンに耐性を獲得している菌も少なくありません。

特にゲンタシンは皮膚感染症の主要な原因菌であるグラム陽性球菌に対しては穏やかに作用するため、不十分な作用となり細菌を耐性化させてしまう事もあります。

ゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームを用いる際にはこのようなリスクも理解し、ゲンタシンによる治療を継続していても改善が不十分な場合は漫然と使い続けることは避けなくてはいけません。

ゲンタシン軟膏・クリームは外用剤であるため、その副作用は多くはありません。健常な皮膚においては、ゲンタシンは角質をほぼ通過せず体内に吸収されないため、皮膚の表面にいる菌はしっかりとやっつけてくれる反面で、体内に入って副作用を起こす事は少ないお薬です。

しかし角質が壊れた状態の湿疹や皮膚炎・潰瘍といった部位に塗ると多少体内に吸収されてしまう事が分かっています。

ゲンタシンをはじめとしたアミノグリコシド系抗菌薬は、強い効果がある一方で身体に負担をかけてしまう事もあります。特に内耳と腎臓に負担がかかりやすく、これにより難聴・腎障害といった副作用が生じる事があります。

外用剤のゲンタシンでこのような副作用が生じる事は極めて稀ですが、絶対に生じないとは言えないため、一定の注意は必要になります。

以上からゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームの特徴としては次のような事が挙げられます。

【ゲンタシンの特徴】

・アミノグリコシド系の抗菌薬(細菌をやっつけるお薬)である
・グラム陰性桿菌に強い効果を示し、グラム陽性球菌にも穏やかに効く
・古くから使われており、耐性菌(ゲンタシンが効かない菌)も多くなってきる
・長期・大量使用による副作用の難聴・腎障害に注意

 

2.ゲンタシンはどんな疾患に用いるのか

ゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームはどのような疾患に用いられるのでしょうか。添付文書には、次のように記載されています。

【効能又は効果】
<適応菌種>
ゲンタシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属(肺炎球菌を除く)、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、緑膿菌

<適応症>
表在性皮膚感染症、慢性膿皮症、びらん・潰瘍の二次感染

ゲンタシンが効果を示す菌は、上記のような菌が主になります。

細菌には、

  • グラム陽性球菌
  • グラム陽性桿菌
  • グラム陰性球菌
  • グラム陰性桿菌

の4種類がいます。このうち、グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌の2種類がほとんどを占めます。

ゲンタシンはグラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌など)に強い効果を発揮します。またグラム陽性球菌(ブドウ球菌、レンサ球菌など)にも穏やかに効くお薬になります。

そのためゲンタシンが使われる疾患としては、上記のような菌が皮膚に感染している状態になります(上記のブドウ球菌・連鎖球菌はグラム陽性球菌であり、その他はすべてグラム陰性桿菌になります)。

またびらんや潰瘍といった、皮膚が傷ついている状態だと細菌が巣食いやすいため、このような皮膚に細菌が二次感染してしまった状態の治療にも用いられます。

【びらん(糜爛)】
表皮の欠損で、皮膚の一番上の皮が浅くえぐれてしまっているような状態。

なおゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームの有効率は、

  • 表在性皮膚感染症への有効率は82.8%
  • 湿疹及び類症の二次感染への有効率は69.8%
  • 慢性膿皮症の二次感染への有効率は64.9%
  • びらん・潰瘍の二次感染への有効率は57.9%

と報告されています。

ただし、最近は耐性化も進んでいるため有効率は低下してきている印象があります。

 

3.ゲンタシンにはどのような作用があるのか

ゲンタシンはどのような作用機序によって細菌をやっつけているのでしょうか。

まず。抗菌薬は「静菌作用」を持つものと「殺菌作用」を持つものがあります。

静菌作用というのは、「細菌の増殖を抑える作用」です。細菌を殺すわけではなく、それ以上増殖させないように作用することで、穏やかに抗菌作用を示します。

対して殺菌作用というのは、「細菌を殺す作用」です。直接細菌にダメージを与えることで、強力な抗菌作用を示します。

どちらも抗菌作用ですが、殺菌作用の方がより強い効果である事が分かります。

ゲンタシンはと言うと「殺菌作用」を持つお薬になり、強力に菌をやっつけてくれる作用を持ちます。

ではゲンタシンはどのようにして細菌を殺すのでしょうか。

ゲンタシンをはじめとしたアミノグリコシド系抗菌薬は、細菌の細胞内にあるリボソームという細胞内小器官に結合し、リボソームのはたらきを邪魔する事でその作用を発揮します。

リボソームというのは、DNA情報を元に種々のタンパク質を合成するはたらきを持ちます。

ゲンタシンがリボソームのはたらきをブロックすると、細菌は必要なタンパク質を合成できなくなってしまいます。すると、細菌が生きるために必要なタンパク質の合成までも行えなくなってしまうため、細菌は死んでしまうのです。

例えば細菌の細胞の壁の原料もタンパク質ですから、リボソームのはたらきが邪魔されると、細菌は自分の細胞の形状を保てなくなり、死んでしまいます。

このような作用によってゲンタシンは次のような菌に殺菌作用を示します。

 

Ⅰ.グラム陰性桿菌への殺菌作用

ゲンタシンは上記の作用機序によって、主にグラム陰性桿菌に対して強い殺菌力を発揮します。

グラム陰性桿菌は、

  • 大腸菌
  • クレブシエラ属
  • エンテロバクター属
  • プロテウス属
  • セラチア
  • モルガネラ・モルガニー
  • プロビデンシア属
  • 緑膿菌

などが挙げられます。

ただしゲンタシンは嫌気性菌には効果がないことが多いため、

  • バクテロイデス属(グラム陰性桿菌)

には効きません。

 

Ⅱ.グラム陽性球菌への殺菌作用

ゲンタシンは上記の作用機序によって、一部のグラム陽性球菌にも殺菌作用を示します。

具体的には、

  • 黄色ブドウ球菌

への効果は比較的しっかりしています。

実際、皮膚の細菌感染症の多くは、表皮ブドウ球菌などのグラム陽性球菌であるため、このような菌に対して効果を示すゲンタシンは、皮膚感染症によく用いられているのです。

ただし、

  • レンサ球菌

はゲンタシンが効かない事も多いため、注意が必要です。

例えば、「伝染性膿痂疹(とびひ)」はブドウ球菌やレンサ球菌が原因となりますが、ゲンタシンが効かないレンサ球菌の可能性もありますから、ゲンタシン以外の抗菌薬を選択するのも手でしょう。

 

4.ゲンタシンの副作用

ゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームの副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。また副作用はどのくらい多いのでしょうか。

ゲンタシンは副作用発生率の詳しい調査は行われていません。しかし全体的に見れば外用剤であるゲンタシンの安全性は高く、副作用は少ないと言って良いでしょう。

生じる副作用もほとんどが軽度のもので、

  • 発疹
  • かゆみ
  • 発赤
  • 腫れ
  • 水疱、湿疹

などです。

いずれも重篤となることは少なく、多くはゲンタシンの使用を中止すれば自然と改善していきます。

またゲンタシンをはじめとしたアミノグリコシド系で注意すべき副作用として、

  • 腎障害
  • 難聴

があります。

ゲンタシンをはじめとしたアミノグリコシド系は内耳や腎臓といった臓器に負担をかけることのあるお薬ですので、長期間・高用量のゲンタシンが体内に入ってしまうとこのような副作用が生じる事があります。

これは主に注射剤のゲンタシンで注意すべきもので、外用剤のゲンタシンで生じることは極めて稀です。

実際、角質が破壊されていない皮膚にゲンタシンを塗っても、ゲンタシンはほとんど体内に吸収されない事が確認されていますので、ゲンタシンが内耳や腎臓を傷めるという可能性はかなり低いと考えられます。

しかし皮膚の角質バリアが破壊されているような状態(皮膚に潰瘍や皮膚炎などがある場合)では、ゲンタシンは体内に多少吸収される事が確認されています。

重症熱傷例にゲンタシンを3日間塗布した研究においては、尿からゲンタシンが検出されており、ここから体内に吸収されている事が分かります。ゲンタシン軟膏でのゲンタシン排泄率は0.4~5.2%、ゲンタシンクリームでのゲンタシン排泄率は5.1~30.3%と報告されており、軟膏よりもクリームの方が体内に吸収される率が高い事が分かります。

 

5.ゲンタシンの用法・用量と剤形

ゲンタシンの外用剤には、

ゲンタシン軟膏(0.1%) 10g
ゲンタシンクリーム(0.1%) 10g

といった剤型があります。

ゲンタシンの使い方は、

1日1~数回患部に塗布するか、あるいはガーゼなどにのばしたものを患部に貼付する。

と書かれています。実際は皮膚の状態や場所によって回数や量は異なるため、主治医の指示に従いましょう。

また抗菌薬は、大量・長期間使っていると耐性菌を出現させてしまうリスクになります。そのため、ゲンタシンをはじめとした抗菌薬は、必要な期間のみしっかりと使い、漫然と長期間使い続けないように注意が必要です。

 

6.ゲンタシンの使用期限はどれくらい?

ゲンタシンの使用期限って、どのくらいの長さなのでしょうか。

「家に数年前に処方してもらった外用剤があるんだけど、これってまだ使えますか?」

このような質問は患者さんから時々頂きます。

これは保存状態によっても異なってきますので、一概に答えることはできませんが、適正な条件で保存されていたという前提(室温保存)だと、「3年」が使用期限となります。

 

7.ゲンタシンが向いている人は?

以上から考えて、ゲンタシンが向いている人はどんな人なのかを考えてみましょう。

ゲンタシン軟膏・ゲンタシンクリームの特徴をおさらいすると、

・アミノグリコシド系の抗菌薬(細菌をやっつけるお薬)である
・グラム陰性桿菌に強い効果を示し、グラム陽性球菌にも穏やかに効く
・古くから使われており、耐性菌(ゲンタシンが効かない菌)も多くなってきる
・長期・大量使用による副作用の難聴・腎障害に注意

というものでした。

ゲンタシンは細菌をやっつけるお薬になりますので、細菌感染している皮膚や細菌感染が強く疑われる皮膚に塗るお薬になります。

メリットとしては、1970年から使われており使用実績が多いお薬だという点があります。多くのデータがあるため、安心して使う事が出来る外用抗生剤です。

使い慣れている先生も多いため処方される事も多いお薬ですが、近年では耐性菌も多くなっているため、漫然と長期間使うべきではないでしょう。

皮膚の感染症の多くはグラム陽性球菌ですが、ゲンタシンがもっとも得意とするのはグラム陰性桿菌です。つまり、皮膚感染症はゲンタシンはある程度の効果は期待できるものの、本領が発揮できないことも多いのです。

そのため、ある程度の期間使用しても効果が得られない場合は、ゲンタシンが効かない菌であるか、ゲンタシンに耐性を持った菌の可能性もありますので、ゲンタシン以外の抗菌薬に変更する必要があります。

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